人材を「資本」として捉える人的資本経営という経営手法が注目されている中で、政府と企業が共同で設立した「人的資本経営コンソーシアム」にも関心が集まっています。

複数の企業が参画している人的資本経営コンソーシアムの目的は何か、またどのような役割があるのかについて、参画した企業の事例も紹介しながら詳しく解説していきます。

人的資本経営_コンソーシアム

政府が推進する人的資本経営とは

近年注目を集めている「人的資本経営」とは、人材を資本と捉えて積極的に投資することで、企業として持続的な成長をはかることを目的とした経営手法のことです。

日本経済を活性化させる取り組みの一つとして経済産業省及び金融庁も、この人的資本経営の推進をしています。

政府主体で行われた主な取り組みとしては、2021年には人的資本経営に関する知識やノウハウが凝縮された「人材版伊藤レポート2.0」の公開や、後ほど解説する「人的資本経営コンソーシアム」を2022年に設立するなど、今日に至るまで様々な取り組みを通して「人的資本経営」を推進しています。

人的資本経営を実践する企業が増えれば、各企業の持続的な成長につながるだけでなく、企業間での競争力も向上することが見込めることから、政府は今後も積極的に人的資本経営を推進していくことが予想されます。

経済産業省と人的資本経営の関係について、詳しくはこちらの記事をご覧下さい。

関連記事:「経済産業省と人的資本経営の関係は?」

人的資本経営コンソーシアムの概要

国と企業が連携して人的資本経営を推進させる取り組みの一つとして、2022年8月25日に設立されたのが「人的資本経営コンソーシアム」という団体です。

この団体の主な目的は、先進的な取り組みを行っている事例の円滑な共有や、企業間努力を推進するための情報開示に関する検討等を行うことで、人的資本経営を実践と開示の両面から促進することです。

参考:「人的資本経営コンソーシアム 公式サイト」

入会企業の例

人的資本経営コンソーシアムには、2022年12月15日時点で計437の法人が参加しています。建設業や金融業、サービ業など幅広い業界の法人が参加しており、人的資本経営の実践及び開示に関して先進的な取り組みを行い、その内容を共有しています。

人的資本経営コンソーシアムへの入会には以下3点の条件を満たす必要があるため、会員にいたっては人的資本経営の実践をしている法人であるとみなされます。

  • 国内に事業所を有し、現に事業活動を行っている法人であること
  • 相当数の従業員を対象に人的資本に関する取り組みを行っていること
  • 有価証券報告書や統合報告書等で人的資本情報の開示を行っていること

また、800社を超える企業に「人」を起点としたブランディング支援を行ってきた弊社も人的資本経営コンソーシアムに参加しており、本コンソーシアムへの参加を通じて人的資本に関する知見を深め、当社の持続的な企業価値向上にも励んでおります。

関連記事:株式会社揚羽「【ニュースリリース】人的資本経営コンソーシアムに入会いたしました」

人的資本経営コンソーシアムは、発起人代表の伊藤邦雄氏をはじめ、6名のCEOやCFOを加えた計7名の発起人によって設立されました。次に、この発起人が経営を担っている企業6社をご紹介します。(※役職名及び所属状況は2022年8月25日の設立時点のものです)

参考:「人的資本経営コンソーシアム 会員一覧」

キリンホールディングス株式会社

キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現を目指している企業です。代表取締役社長 磯崎 功典氏は、新規事業を推進するにはこれまでの人財戦略だけでは通用せず、新たな人財戦略や組織能力の大転換が必要と提言しており、想像力やイノベーション、多様性などを重視した人的資本経営を進めて人材力を高めることで、企業が持続的に成長することを目標として掲げています。

参考:キリンホールディングス「『人的資本経営コンソーシアム』に発起人として参画」

株式会社リクルート

株式会社リクルートは創業以来、「個の尊重」や「価値の源泉は人」を掲げて事業展開をしてきましたが、同様に日本の企業が持続的に成長するためにも、人的資本の価値を最大限引き出すための工夫が必要と提言しています。人的資本経営コンソーシアムを通して、今以上の多様性や新しい日本企業の在り方を模索するとしています。

参考:株式会社リクルート「『人的資本経営コンソーシアム』に発起人として参画」

SOMPO ホールディングス株式会社

SOMPOホールディングスでは、人的資本の向上に向けた具体的な取り組みの実践及び公表をしております。例えば社員が使命感や「やりがい」を感じながら働くための研修プログラムやジョブ型人事制度を導入しています。また「社員の幸福度」を「顧客や取引先の幸福度」と同等に捉えることで、エンゲージメントの向上に取り組んでいます。

参考:SOMPOホールディングス「人的資本」

株式会社日立製作所

株式会社日立製作所は、経営戦略に連動した人財戦略を推進することで、従来型の事業形態からの転換を図っています。具体的には、海外マーケットの拡大に伴い国籍や性別の多様性に富んだ集団への変革を人材戦略の目標にしており、従来の日本人男性社員中心の同質な集団からの脱却を目指しております。

参考:株式会社日立製作所「経営戦略に連動した人財戦略の実行」

ソニーグループ株式会社

ソニーグループ株式会社は海外に事業を展開するグローバル企業として、人的資本経営に取り組んでいます。具体的には社員のキャリア開発を支援するための学習プラットフォーム導入や、9割をオンラインで実施する技術研修を行っています。また多国籍での人材獲得や、女性が活躍できる職場環境づくりにも取り組んでいます。

参考:ソニーグループ株式会社「サステナビリティリポート2022」

アセットマネジメントOne株式会社

アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長 菅野 暁氏は、コンソーシアム設立総会において基調講演を行い、人権や多様性への配慮の様な基礎的な取組みや、企業と投資家との対話の重要性を訴えました。企業、学術界、官公庁との協働を通じて、生産性向上と賃金上昇の好循環が生まれるよう、コンソーシアムの活動に積極的に関わるとしています。

参考:アセットマネジメントOne株式会社「サステナビリティレポート2022」

人的資本経営コンソーシアム設立背景

次は、人的資本経営コンソーシアムに2つの省庁がオブザーバーとして参加した背景について解説していきます。

参考:「人的資本経営コンソーシアム 設立趣意書」

経済産業省

経済産業省は以前から日本企業の成長に「人材」が重要である点に注目しています。2014年に「伊藤レポート」を公表し、日本企業が停滞している事実と改善に向けて必要なことがまとめられています。

さらにポイントを「人材」に絞った「人材版伊藤レポート(第1弾)」を2020年に公表し、その内容をブラッシュアップした「人材版伊藤レポート2.0」という報告書によりアップデートされています。この経済産業省がオブザーバーとして参加しており、経済産業省の公式HP上でのコンソーシアム入会受付や、コンソーシアムでの活動内容の情報発信をするといった活動をしています。

参考:経済産業省「人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~」

金融庁

金融庁は2022年11月に、企業が人的資本に関する情報を開示する改正案の内容をまとめました。これにより、今後企業は自社の財務情報に加えて「サステナビリティに関する自社の取り組み」を開示することが求められるようになります。

これは2023年3月31日以降に終了する事業年度における有価証券報告書から適用されます。金融庁は経済産業省と同様に、人的資本経営コンソーシアムへオブザーバーとして参加しており、人的資本経営の推進をしています。

参考:金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正案の公表について」

人的資本経営に関するこれまでの議論要約

コンソーシアムでは人的資本経営に関して様々な議論が進められおり、分科会が度々開催されています。

議事については非公開とされているため、詳細な内容を確認することはできませんが、「人的資本の情報開示」に関する議論を進める旨を、2022年7月25日に経済産業省がコンソーシアム設立背景とともに公表しています。2023年4月4日時点で「開示分科会」が2度開催されており、人的資本情報の可視化に向けて企業経営の参考となる指針の検討が進められていると予想されます。

参考:経済産業省「人的資本経営コンソーシアムが設立されます」

まとめ

人的資本経営コンソーシアムは、日本企業における人的資本経営を実践と開示の両面から促進することを目的として設立されました。

このコンソーシアムに参加している企業や法人は、人的資本経営を推進する取り組みを続けており、コンソーシアムのHPでも情報発信をしています。例えば、企業等が大学などの高等教育機関と連携して「人材育成」に関する講座を設立する際の費用を、経済産業省が補助をしているため、その制度を利用することを促しています。

今後もこの人的資本経営コンソーシアムから様々な情報が発信されることが予想されるので、日本全体における人的資本経営の動向を知りたい方は、定期的にチェックしておきましょう。

参考:人的資本経営コンソーシアム「トピック」